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2025/03/21

『みちのくの花/ずっと君を想ってた』岩本晶子さんライナーノーツ

『みちのくの花/ずっと君を想ってた』岩本晶子さんライナーノーツ

かつて洋楽レコードには必ずと言っていいほどライナーノーツと呼ばれる解説文が封入されていました。レコードに針をおとす前に読む人、何度も聴いてからあらためて読む人、人それぞれの読み方がありましたが、いずれにしても楽曲の想いをさらに深める『想像の旅』を、このライナーノーツが担っておりました。

水田竜子は、2018年発表の『礼文水道』よりオフィシャルサイトにてライナーノーツ掲載をはじめました。執筆いただいているのは岩本晶子さん。かつて音楽誌のライターを担当し、現在は次世代のライターを育てる専門学校で教壇に立っておられます。

楽曲とは関係ないプライベートを掘り下げるインタビューが乱立している中、氏のインタビューは楽曲に対する探究心と新たな発見、そして何より歌い手の的確な分析と愛情が溢れておりました。

今回も執筆を依頼させていただきました。岩本さんにお渡しした資料は、詩と楽曲音源のみです。余計な情報はいっさいお渡ししない中で創り上げてくださったライナーノーツです。

読み方は人それぞれです。お聴きになってから、、、 お聴きになる前に、、、あるいはジャケット写真を眺めながら、、、人それぞれです。それがライナーノーツです。どうぞ歌の旅をお楽しみください。

 

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“みちのくの花”と聞いて思い浮かべる花は、おそらく人によってさまざま。
ミヤギノハギ、ベニバナ、ネモトシャクナゲ、リンゴノハナ、キバナコスモス、コキアなど、いずれも可憐であったり人目を惹く色が特徴的で、今さらながら「演歌・歌謡曲業界という厳しき世界に身を置きながらも、まさにシャクヤクのように凛と立ち続ける歌手・水田竜子の存在と相通ずるな……」と思ったりする。

新曲『みちのくの花』は、ドラマティックな物語が始まることを予感させる前奏(イントロ)に耳を奪われている間に、気がつけば歌い出しからもう、ドラマの世界のど真ん中に惹き込まれていて、目の前には歌の主人公・水田竜子が立っている──そうした深い没入感を味わえる楽曲だ。

新曲としては約2年ぶりのお目見え。けれど、“待ったかいがあった”と、これまでの水田竜子を知っている人ほど、その感慨を噛み締められる歌になっている。

“逢いたい”という気持ちは、究極の恋愛バロメーターといっていい。
その想いはこの歌の中でいくつもの言葉に置き換えられ、そして水田竜子の声色で、表現で迫ってくる。
ゆえに、この歌のすみからすみまで切なさが横たわっている。
けれども、その上に添えられているのは弱々しい嘆きや悲観的なあきらめではなく、今、これから花開こうとするひたむきさであり、愛しい人を信じ続けている一途さ。

約束があっても、想いが強くとも、一欠片の疑いもなく長い時間ひたすら信じ続けることは難しい。
それができるのは、どこまでも純真で心が強い人にかぎられる。
その強さが、水田竜子が歌う女性像には備わっている。
夕月に自身を重ね、さみしさに瞳を潤ませる日があっても、“さんさ時雨”が胸にある。
そして、どこで生きていようと、どんな時代に生きていようと、その恋心がしおれてしまわないかぎりは、誰の中にもある《恋しい人の瞳に映る自分は“綺麗”でありたい》という気持ち。
つまり、自身とはかけ離れた世界観の歌のようであって、実は私たちにとってもごく自然に、等身大で共感できる──それがこの歌の正体なのではないか。

そして、忘れてはならないのは《“あなた”にとっての“みちのくの花”であり続けたい》という想いがこの歌の最芯部にあるということ。
この歌を歌う誰もが“みちのくの花”となり、一輪でも多く開花することで、歌手・水田竜子が “みちのくの華”として咲き誇ることをみんなで願いたい。


もう一つの願いは、カップリング曲『ずっと君を想ってた』のような世界。
描かれているのは、長く離れていた二人がもう一度、ともに人生を綴りゆこうとする大人の恋物語。
にもかかわらず、この歌がまとっている空気感は、まるで初恋のそれに近い清廉さがあり、《純度の高い大人のピュア・ラヴソング》とでも形容したくなる透明感にあふれている。

そこには恨みもつらみも後悔もなにもない。
ただ、“ずっと君を想ってた”という桜色の心だけ。

この歌の二人のように、《ただ相手を大切に想う》という誰しも抱いたことがあるだろう気持ちを今、あらためて心に宿すことで、身近な人を、最近はあまり会えなくなった人を、遠く離れている人を、これまで自身の人生の中で交わってきた人たちを、やさしく思いやり想い合えたなら、たおやかな明日を望めるかもしれない。

 

©︎2025 AKIKO IWAMOTO

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