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2021/04/06

岩本晶子さんの『みちのく夢情/うす紅の宿』ライナーノーツ(解説文)

かつて洋楽レコードには必ずと言っていいほどライナーノーツと呼ばれる解説文が封入されていました。レコードに針をおとす前に読む人、何度も聴いてからあらためて読む人、人それぞれの読み方がありましたが、いずれにしても楽曲の想いをさらに深める『想像の旅』を、このライナーノーツが担っておりました。

水田竜子は、2018年発表の『礼文水道』よりオフィシャルサイトにてライナーノーツ掲載をはじめました。執筆いただいているのは岩本晶子さん。かつて音楽誌のライターを担当し、現在は次世代のライターを育てる専門学校で教壇に立っておられます。

楽曲とは関係ないプライベートを掘り下げるインタビューが乱立している中、氏のインタビューは楽曲に対する探究心と新たな発見、そして何より歌い手の的確な分析と愛情が溢れておりました。

今回の『みちのく夢情/うす紅の宿』でも執筆を依頼させていただきました。その際お渡しした資料は、詩と楽曲音源のみです。余計な情報はいっさいお渡ししない中で創り上げてくださったライナーノーツです。

読み方は人それぞれです。お聴きになってから、、、 お聴きになる前に、、、あるいはジャケット写真を眺めながら、、、人それぞれです。それがライナーノーツです。どうぞ歌の旅をお楽しみください。

 

歌手生活28年。

新曲「みちのく夢情」は34枚目のシングルであり、

 

7年ぶりの“スリーウォーターズ”作品でもある。

 

とくれば当然、連想されるのは“円熟味”にあふれた歌声であり、

技巧を凝らした節回しによる心地良い重みーー。

だが、新曲「みちのく夢情」の歌声から感じ取れるのは、

なんと“瑞々しさ”なのである。

 

“若手“と呼ばれる時代に、初々しさとともにそれを持ち合わせている人は多い。

 

しかし、歌手としての年輪を刻んでいくごとに、

 

また、“深み“や“味“といったものと引き換えに、いつしか手放していくものであるはずだ。

 

キャリアとの共存は極めて稀であるように思う。

 

ところが水田竜子という歌手は、

機微を配した歌唱テクニックのうえに、

この“瑞々しさ”を流し込むといった芸当をナチュラルにやってのけている。

 

かといって、円熟味を封印したわけではなく、

むしろ日々、磨きをかけていることは、

 

カップリング曲「うす紅の宿」を聴けば語るまでもない。

 

 

 

水田竜子は手持ちのカードを1枚たりともトレードしない。

 

決して手放さず、着々とアップデートしていくのだ。

 

ある意味、とても強欲な歌い手であると言える。

 

 

 

メジャー調の新曲「みちのく夢情」のメロディに寄り添っているのは、

そうして手にした聡明な杲杲さであり、瑞々しさなのだ。

快然たる想いすら感じられる。

 

 

しかし、その声の奥にちゃんと、

歌の“心”を誂えてくれているのが水田竜子なのである。

 

みれん心を船に乗せたといっても、

人の感情というものはケーキのようにきれいに切れ分けられるものではなく、

終わりも始まりもなく、ただ、そうあるということーー。

 

そして、観音さまがもらい泣きする恋とは如何程かーー。

 

言葉では説明するすべを持たない感情。

「無情」を「夢情」に変える女心。

 

水田竜子が歌い上げているーーというより、

水田竜子が「無」から「夢」へ変革させているのかもしれない。

 

舞台の地となっている釜石への言葉に変えがたい想いも込めてーー。

 

 

“相性が良い”とか“良い巡り合わせ”といった話ではなく、

 

水田竜子はいつだって自らが呼び水となり、

 

その時々にもっとも輝きを得られる歌を惹き寄せているのだ。

 

©akiko iwamoto

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